熱処理工程では、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。こうした問題は製品の品質に直結するため、あらかじめ適切な管理体制を整えることが不可欠です。この記事では、よく見られるトラブルの種類とその対策、さらに未然に防ぐための予防策について解説します。
脱炭とは、熱処理の過程で金属表面から炭素が抜け落ちる現象を指します。この現象が起こると、金属の表面硬度が低下するおそれがあります。主な原因は、処理中に酸素と鋼材表面の炭素が反応することによるものです。これを防ぐためには、ガス雰囲気を適切に管理する熱処理や、酸素の影響を受けにくい真空熱処理の採用が効果的です。
酸化とは、高温環境において金属表面が酸素と反応し、酸化皮膜を形成する現象です。この皮膜によって表面が劣化し、異常摩耗や破損のリスクが高まる可能性があります。酸化を防ぐには、不活性ガスを使用するほか、酸素(O₂)、水蒸気、二酸化炭素(CO₂)といった酸化要因を除去することが効果的です。
熱処理中に発生する変形は、主に熱膨張や収縮といった温度変化によるものです。さらに、金属組織の変化にともなう「変態による体積変化」も大きな要因となります。こうした変形を抑えるためには、処理温度の均一な管理や冷却条件の見直しが効果的です。場合によっては、熱処理後の後加工によって補正できるケースもあります。
割れは、熱処理後の切削や研磨といった後加工中に発生するトラブルの一つです。製品の形状や冷却方法、熱処理条件などが原因で発生することがあります。なかでも、表面温度が約100度に達して生じる「第1種研削割れ」、約300度で発生する「第2種研削割れ」が代表的です。対策としては、製品の形状を見直し応力集中を避けるR付けや、温度を正確に制御し焼入れ後の焼戻しを行うなど適切な熱処理が有効です。
脱炭を防ぐためには、炉内の酸素濃度を制御し、炭素の損失を抑制する必要があります。二酸化炭素(CO₂)や一酸化炭素(CO)の濃度を制御し、無酸素に近い状態を作り出します。また、窒素(N₂)やアルゴン(Ar)といった不活性ガスを使用して、酸素と金属の直接的な接触を避ける方法が有効です。さらに、温度管理が不十分である場合は、局所的な脱炭が発生するおそれがあるため、加熱および冷却の各プロセスを見直し、安定させることが求められます。特に精度が求められる熱処理では、酸素との接触を避ける目的で真空環境が使用され、脱炭の発生を抑える効果が期待されています。
酸化を予防するには、原因となる酸素(O₂)や水蒸気、二酸化炭素(CO₂)などを排除することが有効です。また、炉内に不活性ガスを充填して熱処理を行うことも、酸化の抑制が期待されます。しかし、炉内の酸素を粒界酸化が発生しないレベルまで低減することは困難でしょう。また、不活性ガスであるアルゴン(Ar)は高価なことから、窒素(N₂)がよく使用されます。粒界酸化の発生を防ぐために、真空浸炭やプラズマ浸炭といった処理が採用されるケースもあります。
加熱や冷却時の温度差、または急激な温度変化によって、変形や割れが発生するおそれがあります。積み込み方法を工夫し、均一に加熱・冷却を行うことが有効です。また、複雑な形状の場合は冷却が均一にできないため、変形を予測し、プレステンパリングなどで変形を修正する必要があります。
以下のページでも、熱処理トラブルに関する予防策について解説しています。参考資料としてご確認ください。
熱処理では、さまざまなトラブルが発生するおそれがあります。しかし、あらかじめ予防策や対処法を把握しておくことで、リスクを最小限に抑えることが可能です。この記事を参考に、熱処理時のトラブルを未然に防ぎましょう。
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