本記事では、熱処理による硬度と靭性の関係や、各々を向上させる方法等について解説します。
硬度は、材料表面が局所的な塑性変形に抵抗する能力を示す指標です。ダイヤモンド圧子を用いるロックウェル、ビッカース、ブリネル硬さ試験では、それぞれ異なる方法で荷重と圧痕の深さまたは面積を測定し、硬度を数値化します。硬度が高いほど摩耗やすり傷に強く、歯車やベアリングなど摩耗限界が厳しい部品に欠かせない特性です。
靭性は、外部からの衝撃や繰り返し荷重にもろく割れずにエネルギーを吸収できる能力を示します。焼入れによって生成されるマルテンサイトは硬度を高める一方で内部ひずみを蓄積しやすく、靭性は大きく低下して割れやすい状態です。そこで焼戻しを行い、マルテンサイト内部のひずみを緩和し粘り強さを回復させます。
金属を硬くすると、組織が脆くなり靭性が低下します。逆に、靭性を高めると硬度が下がる傾向があり、硬度と靭性はトレードオフの関係にあります。そのため、焼入れ後には焼戻しを行い、このバランスを調整することが大切です。
焼入れは、鋼をオーステナイト化する温度まで加熱し、その後急速に冷却することで「マルテンサイト」と呼ばれる硬くて強い組織を形成する熱処理法です。冷却には、主に水や油といった媒体が使われます。
水は冷却効果が高く、より硬い性質を得られる一方で、材料に割れが生じやすくなるというリスクがあります。高い硬度が必要な場合、水焼入れが有効ですが、急冷時のひずみによって割れが生じるリスクが高まります。
これに対して油は冷却速度が穏やかなため、複雑な形状の部品でも割れを抑えながら、十分な硬度を得ることが可能です。油焼入れは冷却速度を抑えることでひずみを防げることから、大型製品や複雑な部品に適しています。
高周波焼入れは、コイルによる誘導加熱で金属表面を急速に加熱した後に冷却することで、表面のみを硬化させる方法です。表面硬化のみなので、内部の靭性を保ったまま摩耗耐性を向上できます。
焼入れ後のマルテンサイトは硬い反面もろいため、再加熱・徐冷を行う焼戻しで組織を安定化させます。これにより、硬度を少し下げて粘り強さを高め、実用的な機械的性質を得られます。
150~200℃程度で行う「低温焼戻し」は、硬度を大きく下げずに耐摩耗性を保持する点が特徴です。一方、500~650℃以上の「高温焼戻し」はより大きく靭性を回復させるため、衝撃負荷の大きい用途に適しています。用途に応じて1度、または複数回の焼戻しを行います。
焼入れや焼戻しの処理を組み合わせることで、それぞれの用途に適した硬度と靭性のバランスが取れます。硬度と靭性の適正値は材質や製品形状によって異なるため、事前の試験や温度制御が重要です。「あわせてよみたい記事」では、熱処理に関する知識やトラブル予防策等について詳しく解説しています。こちらもぜひ参考にしてください。
「日本工業炉協会」の正会員である工業炉メーカー112社のうち、熱処理炉を扱う62社を調査。
その中から、自動車業界、半導体業界、航空宇宙業界に必要な熱処理方法からメーカーを分類し、各社の熱処理炉の強みや特徴を紹介します。熱処理炉に求める効果から、自社に適した熱処理炉を選んでください。


