高温で稼働する熱処理炉は、扱い方1つで大事故につながる可能性がある設備です。事故を防ぐには日々のメンテナンスが大切。ここでは熱処理炉のメンテナンスについての基本情報をまとめています。
熱処理工程は、高温作業や有害ガスの使用や多数の設備利用など、さまざまなリスクを伴います。そのため、労働安全衛生法第28条の2により、熱処理作業を行う製造業の事業者はリスクアセスメントの実施が義務付けられています。リスクアセスメントとは、作業場の危険性や有害性を特定し、それによる労働災害の深刻度と発生可能性を組み合わせてリスクを評価する手法です。リスクの大きさに基づき、リスク軽減のための対策の優先度を決定。リスクの除去または軽減の措置を検討します。
熱処理作業におけるリスクアセスメントの主な実施時期については、設備または作業方法を変更した場合・新たな設備や作業方法を採用した場合・労働災害が発生した場合などが挙げられます。
ただ、災害を未然に防ぐには早期発見が欠かせません。もし熱処理炉が一度で着火しない、排気口から黒鉛やススが出る、ガス臭い、ファンや駆動部から異音がしている、設定温度が安定しないなどの症状が出たら故障の可能性があります。故障が疑われる作業場所を絞り込み、メンテナンスや部品交換を実施しましょう。
「自社に限って事故が起こるはずない」と油断して、熱処理炉を手入れせずに放置していると、思わぬ事故につながる恐れがあります。
実際に1996年4月13日、神奈川県川崎市の工場にて、機械の熱処理工場においてガス雰囲気炉の運転を開始した際、焼入油が排気筒先端から噴出して警報が作動した事例がありました。原因は、長期使用のために焼入油槽のクーラーから漏れ出した微量の水が焼入油中に入り、部品の高熱によって水が一気に蒸発したためだと考えられています。
事故が起きた背景には、工場のクーラーを13年間も点検しておらず、焼入油の水分分析も年1回のみだったことがあります。さらに、事故の2日前に前兆現象らしいものがあったと報告されており、定期的なメンテナンスがいかに重要かを物語る事例といえます。
熱処理炉を安全に稼働するためにはメンテナンスが必須です。何らかの異常や不具合に気づいた時点で、点検やメーカーに連絡するなどの対処も大切。
今利用している熱処理炉の点検はしっかりしていますか?また、メンテナンスしやすい熱処理炉でしょうか?
熱処理炉を買い替えるなら、まずはメンテナンスなどのサポート体制が整っているか、各メーカーをチェックしましょう。
2023年5月末時点「日本工業炉協会」の正会員である企業113社の中から熱処理炉を扱っているメーカー58社を抽出。その中でサポート体制について公式サイトに明記されている25社から、令和4年度「先進的省エネルギー投資促進支援事業」の対象であった3社を掲載。そのうえで、おこないたい処理方法別に分けて、それぞれの企業の強みや特徴を紹介しています。省エネにつながり、長期的に付き合える熱処理炉メーカー選びの参考にしてください。
※選定基準
2023年5月末時点、「日本工業炉協会」(※2)の正会員一覧に掲載されている企業全113社を調査。すべての企業の中で「熱処理炉」を製造しているメーカーは58社ありました(焼入・焼戻炉(真空炉・浸炭炉含む)、焼きなまし炉(焼鈍炉)、焼きならし炉(焼準炉)、窒化炉を「熱処理炉」と定義しました)。
58社のうち、メンテナンスやアフターフォローをおこなっている旨を公式HPに明記していたメーカーは25社でした。さらに、25社の中から令和4年度の「先進的省エネルギー投資促進支援事業」の対象となっているメーカーのみ3社を選出しています。
パーカー熱処理工業…3社の中で扱っている表面熱処理炉の種類が最多。
東洋炉工業…3社の中で唯一、黒化処理炉を扱っている。
大同特殊鋼…3社の中で企業オリジナルの炉の種類が最多。
※1 参照元:省エネルギーセンター「平成29年度省エネ大賞[省エネ事例部門]受賞内容」PDF(https://www.eccj.or.jp/bigaward/winner17/pdf/e1.pdf)
※2 参照元:日本工業炉協会 正会員一覧(https://www.jifma.or.jp/mem-search/official-lineup/)