本記事では、熱処理におけるオーステナイトの定義や形成方法、オーステナイトを形成する上での注意点等について解説しています。
オーステナイトは、鉄が特定の温度範囲で示す結晶構造の一種で、面心立方格子(FCC)構造を持っています。この構造は、鉄が約911℃から1392℃の温度範囲で形成され、炭素を多く含むことができる点が特徴です。常温での鉄は体心立方格子(BCC)構造のフェライトとして存在しますが、加熱によりFCC構造のオーステナイトに変化します。この変化によって、鉄は炭素を最大約2.14%まで溶解でき、熱処理による材料の性質調整を実現します。こうした結晶構造の変化は、鉄の熱処理において重要です。
オーステナイトは、熱処理を通じて鉄鋼材料の特性を最適化するために利用されます。例えば、焼入れ処理ではオーステナイトを急冷することで硬度の高いマルテンサイトを形成し、工具や刃物など、耐摩耗性が求められる部品に使われます。焼ならし処理では、オーステナイトを比較的早く冷却することで組織を均一化し、機械的性質を向上させます。焼なまし処理では、オーステナイトをゆっくり冷却することで、材料を柔らかくし、加工性を高めます。
オーステナイトは、鉄鋼材料を約911℃以上に加熱することで形成されます。この加熱により、体心立方格子(BCC)構造のフェライトが面心立方格子(FCC)構造のオーステナイトに変化しますが、この変化は鉄が炭素を多く溶解できるようになるため、材料の性質を調整する上で重要です。その後の冷却速度によって、オーステナイトは異なる組織に変化し、急冷するとマルテンサイトが形成され、硬度が高くなります。一方、徐冷するとフェライトやパーライトが形成され、靭性や延性が向上する点が特徴です。熱処理によってオーステナイトの形成とその後の組織変化を制御することで、材料の特性を目的に応じて調整できます。
オーステナイトを形成する際に温度設定が高すぎると、結晶粒の粗大化を招き、機械的特性が劣化する恐れがあります。逆に温度が低すぎると変態が不十分となり、意図した組織変化が得られません。材料の成分や目的とする特性に応じて、加熱温度を厳密に管理することが重要です。
熱処理炉内で温度のばらつきがあると、部位によって異なる組織が形成されて、性能にばらつきが生じることがあります。特に大型部品では、中心部と表面部の温度差が生じやすくなりやすいので、温度センサーの配置や昇温時間の調整を行い、炉内全体の温度を均一に保つ必要があります。
オーステナイトは、熱処理によって鉄鋼材料の性質を大きく左右する重要な組織です。その定義や形成方法、注意点を正しく理解することで、目的に応じた材料特性のコントロールが可能になります。熱処理の精度が製品の性能や品質に直結するため、工程ごとの管理や条件設定には細心の注意を払いましょう。
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